
株式投資は損をしようと思ってやっている人はおりません。戦後の高度成長期ですら幾度もの暴落があり、そのつど大衆投資家といわれる個人投資家が市場を去っていきました。また証券会社の営業姿勢にも問題が多く、社会的信用は上がりませんでした。
証券会社には、推奨株制度があり明けても暮れても同じ株を大量に買わせるために個人営業が動員されました。僕の知る限り、推奨株はたいていの場合、たまには儲かっても顧客に大きな利益をもたらすことはありませんでした。僕はやがて証券会社の仕組みからこれらの株は売りから入れば儲かることを学びました。
俗に言う「から売り」です。今でこそヘッジファンドなど世界中のプロが駆使している手法で、僕は顧客のためにその先取りをしただけでした。みんなが買っている株を売るのですから、推奨株を売らされている営業マンの反発も大きく、禁手に近いものとして罪悪視されていました。
しかし何のために推奨株や1日に何百万株という仕切り(市場から先に手当てして、後から顧客に売る)をやるのか、そのこと自体が営業マンにとって必須でないこともすぐ学びました。
これらの仕組みは、機関投資家などから引き取った株を市場に出せば下がるので、個人客に割り振るケースなどを除けば、たいてい場合ノルマに追われ達成できない支店や部署などへのノルマ達成の一手段だったのです。
ライブドア事件直前のように年間を通して上げ続ける事などめったにない以上、店の顧客は面白いように儲かり、結果としてノルマ以上の数値が達せされ、推奨株など売る必要がなかったのです。
僕は長い間、株は上がると思えば買い、下がると思えば売る株の本来の鞘取りに徹した結果、その間多大の利益貢献をしてきたので、創業以来の異端児といわれましたが、本店営業課長として東京に戻る頃は僕の「から売り」は誰もが認める一種のトレードマークになっておりました。
僕は大手証券の現場での長い経験から、売り銘柄は体で感じます。もちろん失敗もありますが、ロスカットなど対応もしますので、基本は「みんなで渡れば怖くない」橋を僕は渡らなかっただけのことでした。
「人の行く裏に道あり花の山」は先人の残した立派な株で儲ける教訓なのです。
株に絶対はありません。売りでも買いでもしょっちゅう間違います。問題は間違ったときの対処です。
ライブドア事件でもそうでしたが、どんなに暴落してもたいていの場合初日の暴落の安値が、その後の半年一年の高値なのです。そこで損切りできるかどうかが大損をするどうかの分かれ道で、一番いいのはそこでドテン「から売り」するのが一番いいのです。だから僕は信用取引の買いは出来ても売りが出来ない銘柄には手を出しません。やたらとレバリッジをきかせて奨めるのは証券会社の手数料稼ぎの手段になっているだけで発行株数の少ない株を信用買いして高値掴みした場合、買値まで戻る確率はきわめて少ないと思って間違いありません。
無期限信用制度が出来たのも、決まった期日の大量の投げが出るのを緩和する意味合いと、融資による長期の利子取得が狙いの証券会社の都合が見え隠れしております。
昭和30年代以降でもいくつもの大きな暴落がありました。
過去の経験からはっきり言えることは、暴落前の主役はお役ご免で当分株式市場に戻ることはないということです。今回の相場で言えば夏までの最大の主役であったものは、ハイテク、鉄鋼、商社、海運など円安、資源関連、BRICS関連でした。もちろんこれらの銘柄群は好業績でもあり、買いが集中しました。
しかし株の先見性という面から見ると、利益は今がピークで先行き不透明、景気は減速懸念とあっては大抵の銘柄は主役の交代期に来ていると思って間違いありません。
需給面から見ても大商いで信用残も多いこれらの銘柄をこの先誰が買うか考えてみたら、オイルマネーや中国の政府系ファンドでもまとめて買ってくれない限り、個人の信用買い残が0になるまでヘッジファンドなどの外国勢は手を出しません。
そうは言っても日本のマーケットの取引の60%が外人では、彼等の動向は無視できません。ダウ平均などの指数は先物に左右される動きがますます激しくなりその分投資妙味も出てきます。レバレッジをかけるから一瞬で元本をなくすので、普通の銘柄のように1倍で売りも買いもやればよいのです。僕が今一番力を入れているもので1倍でも結構値幅も大きく楽しめます。
一般の銘柄は、年に数回売買で十分で、売りは大商いと仮需要の信用残や裁定残を注視し、買いは評論家が弱気になったらチャンスと見ています。なぜなら評論家が大富豪になった話は聞いたことがないからです。
過去の暴落時に生かされた「逆転の発想」はここでも生かされることは間違いありません。
日本の経済は、政府の発言も徐々に弱くなっております。本音はもっと悪いと僕は解釈しております。日銀もついに利上げ論者が0になりました。サブプライムがあるにせよ誰もが想定しない事態に経済が突っ込みつつある可能性も頭の片隅において置く必要があります。これだけ物が値上がりし始めるとスタグフレーションの心配もあるからです。ガソリンから食料品に至るまで値上げが目白押しで、所得が上がらなければ消費減退を招きます。中小企業の倒産件数もまたぞろ増え続けております。僕の経験からこのような時期を、買いだけで乗り切るのは至難のわざといえます。
この世界を支配している「欲」をどれだけ抑えられるか、株式投資のキーワードは「儲ける」ではなく「減らさない」だと思っております。特に団塊世代以降の大切な資産はこの鉄則を厳守すべきです。
買った株が下がると、僕は10%ロスカットを基本に対応しますが、若いときは意地になって「ナンピン」し大損をかけた事が何度もありました。売りでも買いでも間違ったと思ったとき見切るのと「ナンピン」するのでは僕の場合経験則から10対2位で「ナンピン」の方が分が悪いと思っています。
要するに賭け事は競輪・競馬、宝くじでもそうですが一度当たると意地になってその何倍も損をするのが人間の心理です。間違った場合ドテン反対売買できない人は最低いったん損切りして一息休むべきです。損をして平常心を失っているときに良い判断が出来るはずがないからです。
自分は相場が上手いという過信もどこかで大損を招きます。相場はそんなに甘くありません。儲かったときはたまたま運が良かったくらいに謙虚になる方が傍から見ていても安心です。
昔同じ会社のトップセールスマンが、自分は相場が上手いという過信から大事故を起こしたケースも沢山見てますし、優秀な営業マンが落とし穴にはまるのは大抵過信が原因です。
永年、何百人何千人の営業マンを俯瞰していると必ず傾向があり、意地になりやすいタイプ、自信過剰のタイプは証券投資には向いていないと思います。
よくギャンブルに「熱くなる」という言葉がついて回ります。意地になってつぎ込むという事です。株式投資は究極のギャンブルであることを肝に銘じて冷静に対処することが勝利への鉄則です。
最近の先物を見ていると上にも下にも怖いほど激しく動きます。レバリッジを効かせてやっていると一瞬で元金を失います。夜を跨いで持っていると夜中のアメリカの結果で儲かったり損したりします。僕は先物のロスカットは場中100円と決めております。夜、週を跨いで持つのは投資余力の1/10程度にしております。これでしたら300円持っていかれても致命傷にはならないからです。
僕は長い証券生活で一度だけお客に大損をさせたことがありました。僕の周りには他の大手証券が売りを歓迎しない中、大手で売りが出来ると伝え聞いたお客が私を訪ねてきて取引をしたいと申し入れてきました。僕は客は自分にあった客だけと取引していたので、飛び込みは取引を躊躇したが話を聞いているうちに当時売れていた女優の父親であることが分かったので口座を開くこととなりました。
当時、沢山の仕手グループが暗躍し、仕手が介入した株は暴騰、暴落を繰り返していた。そんな折1週間ほど揚げ続けていた株をその客が売りたいといってきたが客注でもあるので客の責任において受けることにしました。
ところがその株は暫く高値でまったく動かず、お客は夏休みにかかり、東北の山の中の「酸ヶ湯温泉」に湯治にに行ってしまったのです。それから数日をして上がり始めた株は、連日逆日歩がつきそのうち担保不足で追証(追加証拠金)がかかり、会社からは決済するか、追証を至急入れるよう矢の催促となりました。「酸ヶ湯温泉」には電話連絡もつかず、留守宅に聞くと約一ヶ月は帰らないという返事でした。僕はまる一昼夜かけて酸ヶ湯まで行きやっと本人に会えて事態を告げました。
追証をいれるのは東京に帰らないと難しいということで、反対売買で買戻しをすることになり、電話できるところまで行って会社に決済の注文を出すよう連絡しました。ところがである、仕手化した株は、買い気配で値がつかない状態になっており、一週間連続ストップ高してしまったので決済が出来たときは預かり資産はすべて飛んで大幅な不足金が出ていました。
これはもう事件で、最終的に全額不足金が入るまでに決済してからさらに2週間もたっていました。一件落着して十分な対応ができなかったことを詫びに行くとその日の夕方、四谷の有名な料亭「福田や」に来るように連絡がありました。
30畳ほどの広い部屋にお膳を据えて一人で僕を待っていて夕食をともにし、ぽつんと一言「2度と仕手株は手を出さない」といわれました。
業績も良くないし、特別材料も無いのに突然上がりだす株など仕手が介入するケースも多く、今はインサイダーの罰則も厳しくそこまで激しい仕手戦は見られませんが、最近でも弁護士が沢山の借名口座を使って、株価操作をして逃げているニュースが報道されたり、他の口座から大量の買い注文を出して株価を上げておいて片や売り抜け、売った方の金を貰い買った方は払わない鉄砲やも横行しており、あらぬ噂がまことしやかに流れるので、訳の分からない株には近づかないのが一番です。
ライブドア事件も僕から見れば、法の隙を突いたぎりぎりの錬金術で、大衆を巻き込んだ仕手戦とあまり変わらないような気がします。結局何も知らない大衆が大損する構図だからです。どちらも問題が起きないと規制されず、いつも行政が後追いとなっていることも問題です。
僕の知人もライブドアの株で大損をして二度と株はやらないと静かに退場していきました。